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身体重心部に生起する力学的エネルギーに着目すると、歩行運動(特に自由歩行)は振子運動とよく似た効率のよい運動であると言われる1,12)。その理由は、歩行運動が振子運動と同様に、位置エネルギーと運動エネルギーの変換(transfer)をとおしてなされるからである。この振子モデルを用いて金子ら11)は先に高齢女性の自由歩行を分析し、歩行速度の遅い高齢者ほど効率が低いことを報告した。
本研究は、「高齢男性」を被験者として前報11)と同様の分析を行い、若年者および女性との比較をとおして自由歩行における高齢男性の特性を明らかにしようとするものである。

研究方法

1.被験者

本研究の被験者は、日常生活に特別な支障を来たすことのない健康な高齢男性11名(80.9±6.2歳)と、対照群としての比較的若い男性22名(24.7±5.4歳)の計33名である。身長と体重の平均と標準偏差は、高齢群がそれぞれ154.2±6.0cmと53.2±6.6kg、若年群が171.0±3.9cmと66.4±8.9kgであった。

2.実験の装置と手続き

歩行は「気持ちよいスピード」で歩く自由歩行とし、体育館内に特別の歩行路を仮設して、被験者の同意を得た上で実験を行った。すなわち、床に木製の歩行板(長さ10m、幅O−8m、高さO,1m)を敷設し、その中間地点に3枚のフォースプレート(キスラー製)を直列に埋設(長さ1,8m、幅0.4m)して、その上を被験者が歩行するときの床反力(鉛直方向と水平方向)を記録した。また、同時にフォースプレートの側方10mの地点にビデオカメラ(シャープ社製C870型)を設置し、60fpsのテープ速度で歩行動作を撮影した。

3.力学的指標の計算

データレコーダーに記録した地面反力のアナログ信号をデジタル変換してパーソナルコンピュータに転送し、このデータを基に力学的エネルギーを算出したが、その算出方法については詳細を前報11)に記したので、ここでは概略を述べる。
1)力学的エネルギー、仕事、パワーの算出
身体重心部に生起する力学的エネルギーの計算はCavagnaらの方法1,2)によった。すなわち、床反力の水平分力と鉛直分力を積分することによって前方への速度(Vf)と上方への速度(Vv)を算出し、これを基に前方への運動エネルギー(Ek・f)、鉛直上方への運動エネルギー(Ek・v)、および位置エネルギー(Ep)を次式により求めた。
Ek.f=M.Vf2/2…(1)
Ek・v=M・Vv2/2…(2)
Ep=MglVv・dt…(3)
これらの力学的エネルギーの同一時点における瞬時値を次のように加算して総エネルギー(Etot)を得た。
Etot=Ek・f+Ek・v+Ep…(4)
次に、力学的エネルギーの1歩内における変化(エネルギー曲線の増加分)を加算することによって、身体重心を前方へ推進する仕事(以下、前方への仕事;Wf=Σ△(Ek・f))と上方に持ち上げる仕事(以下、上方に持ち上げる仕事;Wv=Σ△(Ek・v+Ep))を求めるとともにそれらを1歩の所要時間で除すことにより、前方パワー(Wf)と鉛直パワー(Wv)を得た。
2)外的パワーと「振子効率」の算出
振子運動と違って歩行運動では、歩行中の総エネルギー(瞬時値)が変化する。この変化は、筋活動によるエネルギー供給(補給)に因るものと考えられる2)。その総エネルギーの1歩内における変化(増加)を合計し、1歩時間(t)で除すことにより、筋活動由来の力学的パワー(以下、外的パワー:Wext)を得た。外的パワー(市ext)=Σ△Etot/t…(5)
次に、歩行運動が筋活動由来のエネルギー供給を全く受けず、振子運動と同様の運動がなされた場合に100%となるような振子効率pendular efficiency(Cavagnaら2)のRecover値と同一)を算出した。
振子効率(PEF;%)=[(Wf+Wv-West)/(Wf+Wv。)×100…(6)

4.統計処理

有意差検定では、F検定により両平均値の分散

 

 

 

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